賢いウサギは巣穴を3つ掘る[戦国策 斉策]
●あなたのホームはいくつ?
人間関係で息苦しいと思うことはだれにでもあるのではないでしょうか。
会社でも学校でも、あるいはなにかのグループでも。
「あの人が苦手で関わるのがしんどいな」とか、
「もうあそこには行きたくないな」とか。
いろいろ思うことは人それぞれだと思います。
今の人間関係に苦痛を感じている人に聞きます。
「今あなたが、自分の居場所だと思える場所はいくつありますか?」
答えが
「会社だけ」とか「家だけ」とか「1つしかない」と思い当たるのであればこのお話を是非読んでみてください!!
●時代は戦国時代
2本目にして早速「戦国策」が登場しました(笑)
しばらくはメインになるかも(笑)
舞台は「戦国の七雄」と呼ばれる列強の1つ、「斉」の国。
今ものすごい人気を誇っているマンガ「キングダム」はこの戦国時代が舞台になっています。
「キングダム」では、「斉」はかなりマイナーな国ですが、実は「キングダム」の時代よりも少し前の時代は、「秦」と「斉」の2強時代が存在しました。
この時代、斉の軍事力は秦に勝るとも劣らないほど強力だったのです。
秦もこれを認めており、秦王をして斉王に対して
「互いに王をやめてワンランク上の『帝』を名乗り、残りの5国(韓・魏・趙・楚・燕)を傘下の国として分割しよう。」
と言わしめるほど。
余談はこのあたりまでにしましょう。(笑)
どうしても書きたくなってしまうのは悪い癖ですね(;^ω^)
また、キングダム系は別記事で書こうかなと思います!!
●背景
斉がこの時代に黄金期だったと書きましたが、その黄金期を築いた人こそ
戦国4君の一人、「孟嘗君」です。
この人は「食客」とよばれる多芸な人材を3000人も抱えていたと言われています。
この人の功績は素晴らしいものが多く、あとなんせ「人望の厚さ」が尋常じゃありませんでした。
この人は斉の宰相でしたが、「宣王」から「湣王(びんおう)」に代替わりすると、次第にそのハンパない影響力を嫉んだ湣王から嫌がらせを受けるようになりました。
●宰相を辞めさせられる
ついに嫌がらせはマックスになり、
湣王「先代の宣王に仕えていた大臣には辞めてもらうことにした」
と言って、孟嘗君を罷免します。
罷免された孟嘗君は、自分の領地である「薛(せつ)」に帰りました。
自領の治世にも注力していたことが幸いして、孟嘗君は薛の領民に温かく受け入れられました。
●食客「馮諼(ふうけん)」、策を献じる
馮諼「賢いウサギが生き延びるられるのは巣穴が3つあるからなのです。いま、君主様は「薛」という1つの巣穴しかありません。これでは安心していられないでしょう。君主様のために、私がもう2つ掘って差し上げます」
孟嘗君「それはありがたい。ぜひ先生にお願いしよう」
といってお金を与え、送り出しました。
●馮諼、魏(ぎ)に行く
馮諼は西隣の「魏」の国に行き、魏王に謁見しました。
馮諼「斉はあの有名な孟嘗君を解任しました。いま、孟嘗君を迎えれば魏の国は強くなりますよ!!」
魏王「本当か!現宰相を上将軍に降格させるので、是非来てほしい!!」
こうして、魏の歓迎の使者が頻繁に孟嘗君のもとに出入りするようになりました。
しかし、孟嘗君は固辞して受けませんでした。
●孟嘗君、斉の宰相に再任される
魏が孟嘗君を宰相に迎えようとしているのを知った斉の湣王は焦ります。
湣王も孟嘗君の凄さをは認めているので、すぐに使者を出し、
「へつらい者に惑わされて、申し訳ないことをした。もう一度、斉の宰相として政治をしてくれないか?」
と伝えさせました。
これで、孟嘗君には再び「斉」という2つ目の巣穴ができたのです。
●あと1つ足りない
しかし、湣王は恨まれて解任させられた相手です。
これから先の保証がない。
そこで、馮諼は孟嘗君に
馮諼「先王(宣王)の祭器を受け取り、この薛の地に宗廟(先王を祭るためのお墓)を建てるべきです」
と進言し、宗廟を薛に建立させました。
こうなると湣王は、父親のお墓が孟嘗君のもとにあるので、簡単に孟嘗君を遠ざけることができなくなりました。
そう、宗廟の存在が3つ目の巣穴となり、斉とのつながりを強固にすることになったのです。
馮諼は言いました。
馮諼「これで巣穴が3つ完成しました。しばらく安心して過ごすことができますよ」
こうして、孟嘗君はそのあと数十年も斉の宰相として君臨し、大きな不幸に遭うことこともありませんでした。
●まとめ
▶人間関係において
この逸話は「狡兎三窟の思想」といって、競争の激しい中国では広く知られています。
つまり、自分の居場所(ホーム)は複数確保しておくべきだという教訓なのです。
居場所がいくつかあれば、ある集団で人間関係につまずいても、
「自分には別の居場所があるんだ」
と思ってスルーできるので、深く悩むことが無くなります。
さらに、自分の居場所は別にあると思えば、普段の付き合いでもとても気を遣うことなく接することができるようになって、負担が軽くなります。
実際、私自身、自分の居場所が1つしかなかったとき、常に「このグループから捨てられたらどうしよう」と考えて、毎日が苦痛でした。
しかし、もっと成長していろんな人と関わり、複数の居場所ができた今は、人間関係に疲れ切ってしまうことがなくなり、負担なくどのグループとも関われるようになりました。
▶ビジネスにおいて
競争が激しいビジネスの世界でも、自社のマルチ化は重要です。
ひとつのジャンルだけでは、そのジャンルが傾けば会社も傾いてしまう。
それを防ぐためには、異種の事業を展開することが大切になってきます。
いろんな大手会社はそれを行っています。
例えば、掃除用品などのメーカーである「ダスキン」は、ドーナツで有名な「ミスタードーナツ」を経営しています。
もちろん、「この道1本」が悪いというわけではありません。
その道1本でこそ、価値があるものも多いのは確かなのですから。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。<(_ _)>
〈イラスト素材:「いらすとや」さんから拝借いたしました〉